あんなにサイダーだったのに
──あんなに爽やかに始まったのに、と俺は回想した。
あんなに爽やかだったのに。
まるで春になりたてに飲んだ、さくらサイダーのような恋だと。
思っていた。
──想っていた、いつの間にか。
思えば、奴が赴任してきたその日、体育館の舞台の上で着任の挨拶をしたその時に、俺は恋をした。
エルヴィン・スミス。社会人を経て体育教師になったという。
長い手足についた形良い筋肉や、男らしい骨組みに、それこそ女生徒のようにときめいた。
『リヴァイ先生!お昼行きませんか』
快活な笑顔で、よく通る声でそう誘われれば、断れる奴などいない。
最初こそ、恥ずかしさから渋る様子を装った俺も、3回目にはきちんと応えた。
『リヴァイ先生のお弁当かわいいですね、小鳥が食べるみたいだ』
奴は、俺の顔くらいありそうなおにぎりを頬張りながら言った。
『……いつもおにぎりなんですか』
『おにぎりと、あとブロッコリーと、ゆで卵と、茹で鶏をよく食べます』
『栄養バランスは……』
『体づくりのために計算はしています』
俺はそこで、半生分くらいの勇気を振り絞った。
『……よければ、作りましょうか、たまに。自分の分のついで、ですが』
『本当ですか?!』
奴は飛び上がって俺の手を握って喜んだ。
いつもの、太陽のような笑顔でニコニコと微笑まれ、俺は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
(どうやら表情には出ていないらしいが……)
『ありがとうございます!じゃあ、お弁当の日はこうしてご一緒しましょう!』
『……!そうしましょう』
願ったり叶ったりだ。
俺はそれから、奴が負担に思わないよう、週3か2のペースで弁当を作り続けた。
私も作りますよ!と奴が言ってくれたので、週1くらいは奴の手作りの弁当だ。
『リヴァイ先生、今日弁当の日ですよね!ご一緒しましょう!』
『はい……』
互いにまだ敬語は抜けぬまま、その関係は一年続いた。
そして春。
某有名テレビ番組が俺たちの学校にやってきた。
『青少年の主張』だか何だか言うやつだ。
屋上から生徒たちが普段言えない本音を叫んだり、告白したりする、あの番組。
微笑ましい本音や、カップルの誕生に思わず涙ぐんだりする中、最後に立ち上がったのは何と、奴だった。
屋上の舞台の上に立つその姿勢良い姿はまるで、軍隊の指揮官のそれだった。
俺は昔から、軍隊モノが好きだった。
戦隊モノも子供ながらに大好きだったが、これは抜きネタの話だ。
俺はその前日に抜いた軍モノのAVを思い返してしまい、それに反省しながら、
何だ何だと頭上を見上げた。
『今日は~~~~~みんなに!!!!!!!!話しておきたいことがある!!!!!!!!!』
相変わらず声はデカい。
だがそのデカさが好い。
その声のデカさで怒鳴りながら扱いてくれねえかな、とか不埒なことを考えた、その時だ。
『化学の~~~~~~リヴァイ・アッカーマン先生~~~~~~~~~ッッ!!!!!!!!!!!!!』
誰だ?デカい声で名前呼ばれて、可哀想にな、でも羨ましい、と思った瞬間。
自分の名前がリヴァイ・アッカーマンであることを思い出したのだった。
『先生っ、エルスミに呼ばれてるよッ』
『先生、先生って!』
『な、何て返せばいいんだ』
『な~に~って!』
『な、な~~~~に~~~~~~?!』
しどろもどろだ。
声も震えた。
『リヴァイ先生~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!』
『え、オイどうしたら』
『好きだ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
途端にキャ~~~~~ッと黄色い悲鳴が上がり、俺の周りの女生徒たちは火のついたように真っ赤になり、ピョンピョンと飛び跳ね始めた。
『エッ、ちょ、リヴァセン、どうすんの!』
『どうすんのって、』
『告白だよ、コクハク!わかる?!受けるの、どうするの?!』
『どうすれびゃ』
『マルとか、バツとか、こう、大きくやって』
『今すぐやって!』
『は!?』
『早く!!!!!!!!』
女生徒たちの目は血走っていた。
『、くッ』
俺は両手で、大きく、それは大きく、マル~~~~!を作った。
当たり前だ、相手はエルヴィン•スミス、変人エルスミの呼び声高かろうとも、一年の間で、俺は奴の人となりを知っている。
俺は奴に恋してる。
またも、キャ~~~~~~~~~ッの波があり、よかったねリヴァセン、おめでとう!とかの声が聞こえてきて、何だか揉みくちゃにされ、そこに、いつ降りてきたのか、いつの間にかエルヴィンが立っていて俺は、もう何も言えなくなってしまって、呆然と立ち尽くす俺を強く抱き締め、抱き上げて、大事にします、と言われたそこで、俺の記憶はふっつりと終わっている。
──そんな、甘酸っぱい、青春の延長線のような恋だったんだがなあ、と思う。今は、思う。
「あっ、まて、待って、エルヴィンせんせ、」
あの快活な笑顔で、犬のように舐め回され、ヒイヒイ善がりながら、身を捩っている。
ここは体育倉庫だ。
俺の大嫌いな埃っぽいマットと跳び箱の上にズボンと下着だけ脱がされ転がされ、あちこちをぬらぬらと舌で辿られて、息も絶え絶えだった。
「ああ、美味しい。リヴァイ先生のお弁当と、どちらかな」
「ッあ、あ、……ッ!」
膝の裏のくすぐったいところをねちねちと舐られ、太ももをしゃぶられ、
あそこの窄まりの皺を伸ばすかのように、執拗に舐められて、俺はさらに息を上げた。
「はあ、っはあ、あ、エル、エルヴィンせんせ、もう……ッ」
「もう?もう何ですか?」
「うう、……アッ!」
伸びてきた長い腕が、俺の腹のあたりをぞろりと撫でる。
思わせぶりにさすさすとそこを撫でさすった後、それが胸まで伸びてきて、赤く腫れていた乳首をきゅうっと摘んだ。
「ひっう!」
「もう、何?」
「はぅ、ッ、エルヴィンせんせ、もう、せつない……」
「切ない?」
「ひ!」
今度は強く爪弾かれ、胎の中が切なく収縮するような感じがした。
もっと中に強い刺激が欲しい。
……明け透けに言ってしまえば、ペニスが欲しかった。
「もう、頼み、ます、っあ、は、」
ペニス、ちんちん、ちんぽ。呼び方は何でもいい。
エルヴィンの、エルヴィン•スミスのあの、大きな、大きすぎるアレが欲しい。
だが俺は言えなかった。
「ああ、なるほど。リヴァイ先生は恥ずかしがりですからね」
エルヴィンはニコニコと笑っている。
太陽のようだと思った、あの笑顔で。
「はい、アーン」
「ア!?むぐ……っ」
突然目の前に差し出され、咥えさせられたのは待ち望んだエルヴィンのアレ、ではなく、アレはアレでも、エルヴィンがいつも首に下げている、白いホイッスルだった。
「欲しいですか?」
「ふ、ヒュッ、ん?!」
「欲しかったら、吹いてください。ああ、大丈夫。ここの体育倉庫は壁が厚いですから、外には聞こえません。」
「ひゅ、?!」
「良い子だ。そう、ちゃんと説明を聞いてから使って下さいね。先程も言いましたが、欲しくなったら、吹いてください。そうしたら差し上げます。ひと吹きにつき、ひとストローク。ね?」
エルヴィンは俺を、跳び箱の上に覆い被せるように乗せ直す。
そして俺の尻を隠していた白衣と、黒いタートルネックの裾を掴んで捲り上げた。
冷たい空気が俺の尻を冷やす。
そこへ、熱い、熱い、アレが充てがわれた。
熱くて、大きなアレ。
ペニス、ちんちん、ちんぽ。
ああもう、呼び方は本当にもうどうでもいい。
「さ、リヴァイせ~んせ」
──あんなに爽やかな、さくらサイダーみたいな恋の始まりだったのに。
今ではまるで、ぐつぐつに煮えたぎった、濃厚なミルクを欲している。
俺は、息を吸い込んだ。