初対面
酷い飲まされ方をしているなと思った。
彼は小柄なサラリーマンだった。
腕まくりしたシャツが清潔そうで、腕の内側の皮膚は真珠のような肌理の細かさだった。
地味な色柄のネクタイの先はポケットに仕舞われている。
花金の居酒屋の喧騒の中では、三つ先の卓の声は聞き取れない。
隣に座って彼の杯を空かせないのは、どうやら上司か取引先らしい。
どうにも断れない様子で、男はジャンジャン酒を注ぐ。
潰してしまおうと企んでいるのはいやらしい目付きで分かった。
入店時には青白いくらいだった肌の色が今はもう桃色に染まっている。
耳なんかは真赤で、眠気を振り払おうとしているのかたまにフルフルと頭を振っている。
年の割に幼い仕草が可愛らしかった。
暫くその様子を肴に酒を飲んでいると、座敷にいた大所帯が騒がしく帰り支度を始め、出て行った。
「……から。……だよ。君も……」
「……困ります」
やっと聴こえてきた話し声は抑えられており、不穏な空気を孕んでいた。
必死に耳を欹てる。
「けどさ……いいの?ウチに切られたらお宅んとこもさ……。ネ、一回、一度きりだからさ」
「いや……無理です……」
「強情だなア~。……分かった、もう一軒行こ。そしたら今日は大人しく帰るからさ、ネッ」
「はあ、飲み屋なら……」
完全に流されている。
このままもう一軒行けば彼はさらにベロベロに泥酔、気分が悪いの?じゃチョットそこで休憩しよっか、大丈夫大丈夫何もしやしないよ、ベッドは君が使ったらいいよ、エ?悪いって?じゃあ端に寝かせてもらおうかな……、うん、眠くなってきた……横いい?……あ~、ダメだ、エッチな気分になってきちゃった、君本当エロいんだもん、すごいエッチな顔してるもん、ねえちょっと触らせて、ちょっとだけ、服の上から……結構筋肉あるんだ、見た目よりずっとグラマラスだね、触ってて気持ち良いよ……勃ってきちゃったな、ホラ。硬い?熱くなってるでしょ、君のせいだよ……触る?ネ、触って?触るだけ、手だけだから……ッア~、ヤバイ、本当ヤバイ、こんだけでイキそう。……服、いい?触るね、いいよね。エッチなおっぱい。綺麗な色だよ、こっちも見せて。……しゃぶっていい?……うん、すごい美味しい、やらしい味するね。出そう?いきたい?ん~困ったな、俺もいきたいんだけどな、いい?ちょっと、先っちょだけ。先っちょだけだから。全部は入れない。ね。そしたら、好きなだけいかせてあげるから。
……これだ。間違いない。何故なら同じ手で私も数人頂いているからだ。
同じ手を使うやつはよく分かる。
どうする、どうやって彼を窮地から救ってやれるだろう?
私はふと思いついた作戦をすぐさま実行した。
馴染みの店員に、電話だと男を呼び出させる。
スマホ全盛期にどんな話だと思われるかも知れないが、男は四十過ぎで、ヤツ自身も相当酔っていた。
何だよ、タイミングわりーなとぶちぶちと零しながらも、男は席を立って行った。
彼はホッと息を吐き出すと、ふらりと危なげに立ち上がって店の入り口を目指して歩き出した。
鞄を持っているから、コッソリと抜け出して帰るつもりのようだった。
大目の札を男の鞄に突っ込んで、ふらふらと歩いていく。
私もすかさず席を立ち、店員にツケといて、と耳打ちして彼を探しに出た。
終電ギリギリのこの時刻に人の溢れる表通りから、彼はおぼつかない足取りで裏路地に入った。
人通りの無い路地をまるでクラゲが漂うかのようにゆらゆらくねくねと歩いていく。
泥酔いだ。
しかしどうしたことか彼は、もじもじソワソワと膝を擦り合わせ始めた。
歩きながらソワソワ、立ち止まってモジモジ。
どうやら尿意を我慢しているようだった。
スラックス越しの小尻がそわそわと振られるのがあまりに可愛らしく、私の愚息は寝起きながら少しずつもたげ始めてしまっている。
もじもじ、そわそわと暫くそれを繰り返すと、彼はピタリと立ち止まってしまった。
太股にギュウと手を挟み、内股にそれが縮められると、彼が「……ア。」と声を上げた。
酒にか、飲み屋のタバコの煙にやられてか、掠れたその小さな声は何ともエッチな響きで私の耳に届いた。
ビクッと肩を震わせると、内腿はいっそうきつく締まった。
彼が股間を抑えている白い指が、挟まれているスラックスの裏に見える。
またギュウ、と指が玉の辺りまで抑えられると、グレーのスラックスはみるみるうちに濃い墨色になってしまった。
摩り合わされている内腿からふくらはぎまで墨色のラインが走ると、ピチャピチャと音を立てて彼の靴がびしょ濡れになった。
――お漏らしだ!
可愛い酔いどれの彼の、まさかお洩らし姿まで見ることが出来るとは、今日の私はツイている!
あまりの幸運に私の愚息も高揚している。いきり立ってズボンの布地を押し上げ、ここにいるぞ役に立つぞと自己主張が激しい。
「ああ……」
思わず詰めていた息を吐き出す。熱い。
「……え。」
振り返った彼の表情と言ったら!
驚きを顔いっぱいに貼り付けた彼は、誰もいないと思っていたのだろう。
酒と羞恥とに酔った真赤な顔で私を見つめている。
まるでたった今射精し切ったかのような、潤んだ瞳、唾液に光る唇はぽかんと開いている。
エッチだ。なんてエッチな子だろう。
「初めまして。……すぐそこのホテルがいいかな?それとも家?」
彼は爆発しそうに真赤な顔、その濡れた唇で、泣きそうに返事をした。
「……ホテルで、頼みます。」