痴漢遊戯
リヴァイ・アッカーマンは痴漢に遭っている。
リヴァイ・アッカーマンは半袖のセーラー服の上に薄手だけれどゆったりとしたカーディガンを羽織っていて、今のところその着衣に目立った乱れはない。
先ほどまでリヴァイの太股のあいだに入り込んで不自然な摩擦を繰り返していた、背後の男のスラックスの膝は、一度は落ち着きを取り戻している。
背後の中年男性はずんぐりとした、いかにも中年太りの大柄である。
小柄なリヴァイをすっぽりと腕の中に閉じ込めて余りあるほどだ。
男の人差し指と中指が、リヴァイの白く、肌理の細かい、産毛の光るような、むっちりとした太股の表面をジリジリと辿るように動いている。
膝から、太股。だんだんと上へ。
しかしもう一つ、別の方向から伸びている手は、セーラーの上着とスカートのあいだ、可愛らしいイチゴ柄のキャミソールの腹あたりをこしょこしょとなぞる。
さらにもう一方からも伸びた腕が、これは大胆にも、胸ポケットの校章を撫で始めた。
リヴァイの付けているブラジャーにはパッドが入っていない。
上から触れられれば、それはすぐに、尖った部分へ当たってしまう。
「……っ」
中指の腹で下から撫でられ、リヴァイは膝を揺らした。
付けているマスクの下では熱い吐息。
下着の濡れる感触がある。
――カウパー、やべえ。
膝を擦り合わせ、太股をギュウっと閉じると、それも快感になってイチゴ柄のパンティの中のチンポがより疼くのだった。
リヴァイ・アッカーマンは三十代前半のサラリーマンで、早くに主任となって部下も持っている。
やりがいのある仕事、可愛い部下、安定した暮らし。
お似合いですよと年若い店員に勧められるまま買った細身のダークスーツを、リヴァイは週末脱ぎ捨てる。
L 30代男性
小柄 細身 筋肉質
シーナ線利用 痴漢数人募集
女装あり 眼鏡 マスク
ネットの掲示板にそう書き込めば、大概連絡をくれる面子は決まっている。
多ければ四五人が待ち合わせた電車の車内で人垣を作り、三人くらいが痴漢行為に及ぶ。
リヴァイ・アッカーマンはひどく興奮した。
衆人環視のスリル。
複数の男たちに視線で犯されながら、名前も知らない男の指や手でイクときの、あの快感!
大概はそれだけでは済まなくて、チンポ欲しさにその中の誰かと寝る。
沿線のラブホに詳しくなったし、スタンプカードとクーポンはあっと言う間に溜まった。
――ああ、今日はこの中の誰と寝ようか。
いつの間にか知らない男の指はイチゴ柄のパンティの中に入ってきている。
囲む男たちの息遣いは荒くなってきていた。リヴァイも同様だ。
ソコは事前に準備済みで、男の太い指でも、大きなアレでも、何でもござれにいやらしい口をひくつかせている。
男は中指でぐるうりと、焦らすようにたっぷり時間を掛けてアソコのふちを撫でる。
「……っふ、うう。ん……ッ!?」
がたんと大きく電車が揺れ、予想外のタイミングで、ぬぷ、と指先が入ってしまう。
思わず上げてしまった小さな嬌声に、周りの男たちが脂下がった顔をリヴァイへ向ける。
「……入っちゃったね。かき回す?それとも、奥まで入れちゃう……?」
はあ、はあと耳元に生暖かく臭い息がかかってリヴァイは総毛だった。
しかしそれは不快感だけを感じてではなかった。
嬲られてチンポとアソコを熱くする才能が、リヴァイにはあるのだった。
「ぁ……ッ、なか、なかァ……ッ」
「ウンウン……」
エッチなアソコ、掻き混ぜてあげようね~。
横に立っている男が小さく笑う。
「ん、あア……ッ!」
中指が少し進んだところで、ぐにゅり!と回される。
がくがくと震える膝はモウ立っていられない。
はやく、はやく。
もっとそのブッとい指を突っ込んで、ぐちゃぐちゃに掻き回して。
パンティの前に手を伸ばした別の男の指が、待ち遠しかった。
カウパーで濡れた先をいじめてほしい。
サオを扱きながら、中をいじられたい。おかしくなるほど。いきたい!
――ああ、もうめちゃくちゃにしてくれ!
堪りかねて頭をふるふると振ると、黒髪がぱしり、隣の男にぶつかる。
その向こうに、こちらを見ている目がある。
若い、スーツ姿の男だ。金髪だった。
――エルド。
「ちょっと。……その子、嫌がってるんじゃないですか。」
男たちはへどもどしながら散って行こうとし、エルドがそれを追おうとするのを、リヴァイは腕を掴んで止めた。
彼らが捕まってはいけない。
俯いて、伊達眼鏡とマスクに隠れるようにして伏目に首を振ると、エルドはそれで追うのを止めた。
「……あの。」
気づかれぬよう、とにかく頭を勢いよく下げ走り出した。
が、その腕を掴まれ、連行されてしまったのである。
自販機の撤去された階段下は薄暗く、人目も無い。
「……主任、ですよね。」
どうして、とエルドはリヴァイに言うとも無く呟いた。
エルドは若手だが班ではリヴァイの次に社歴が長く、その分付き合いも長い。
どう考えても、誤魔化せそうになかった。
「……すまん。」
黙っててくれ、この通りだ、気持ち悪いのも分かる、認める。
あのおっさんたちとは合意で、いや俺もおっさんなんだが、その、プレイで、掲示板で募集して、イチゴの柄は指定で、としどろもどろに、こんなことまで言う必要はということまでベラベラと一気に喋ってしまう。
顔は火が出ているというくらいに熱い。
まともに、エルドの顔を見られなかった。
掴まれたままだった腕がギュウと握られて、その熱さに驚いた。
嫌悪か、義憤か。
確かめる言葉は掛けられそうになかった。
ただ、強く熱いその手が、車内での行為を思い出させ、不意に腹の奥がキュウっとなる。
まだ勃起したままのモノを、悟られまいと太股に挟み込む。
これも、いけなかった。
――早く解放してくれ。それで、誰かと。ホテルに行きたい。恥ずかしい姿を笑われながら、思いっきりハメられてえ。
はやく、はやく、はやく。
苛々と、じりじりのあいだでソレはどんどん膨らんでくる。
「主任、ちょっといいすか。」
マスク、取って。こっち見て下さい。
掠れた声で、エルドがそう言った。
ばくばくと弾けそうな心臓を励まして、どうにか前を向く。
エルドの顔は真赤だ。上気している。車内の男たちの、あの表情によく似ていた。
ゆっくりと、震える手でマスクを外す。
顔が火傷したように熱かった。
「……アンタ、どんな顔してるか分かってるんですか。」
ヤバいです。どう考えても。チンポ欲しい顔にしか見えないです、主任。
ドン、と身体がぶつかってくる。抱き締められたのだと、一瞬あとに気づいた。
スーツ越しの股間は硬くなって主張している。
「主任。……明日、午前休、いいですか。」
「……ああ。」
二人分抜けた月曜のスケジュールを頭の中で組みたてようとして、リヴァイは失敗した。
プリーツスカートの襞を、同じ熱く硬いふくらみが押し上げて、皺を作っていた。
電車はぷわん、がたんがたんと音を立てて、ホームを過ぎて行った。