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花泥棒





「リヴァイくん、雪合戦しよう。」

ニートが言った。
俺は学校が終わったばかりで、そのまま寮に戻らず、ニートの家にやって来たばかりだった、
玄関の、薄みどりのペンキの剥げかけた戸を叩く間もなく、それは開いた。

「リヴァイくん」

そしてユキガッセンに誘われたのだ。

「ユキガッセン?」
「そう、雪合戦。したことない?」
「……こんなに雪積もったの見たの、初めてだ」
「ああそうか、生まれてないか。昔ね、こんくらい積もったんだよ」

ニートはそう言うと、何かを俺に押し付けた。
「はい。手袋持ってないでしょ、軍手ならあるから」
なんで軍手なんかあるんだよ、という俺の問いには答えず、さあ、やるか、とニートは外へ出た。


ユキガッセンはとにかく、雪まみれになった。
明日が休みで良かった。
途中、あつくなって脱いだコートもいつの間にか濡れ、学ランはもっと酷かった。
学ランの隣に掛けられたニートのモッズコートも、同じように雪化粧されていた。

「あー、熱い!リヴァイくんちょっとタンマ、他のことして遊ぼう」

俺は雪まみれにされたのが悔しくて、喋っている間も雪玉を投げつけていた。
タンマ、タンマとニートは笑った。

「あー楽しかった。よし、次、雪だるま作ろう。」

ニートは手に持っていた雪玉を、しゃがんで転がしはじめた。

「リヴァイくんは頭ね。小さいほう。」

あまりに喜々として玉を転がしているので、俺も文句を言えず、そこら辺に雪玉を転がした。
ころころと転がすたび、雪玉は少しずつ大きくなっていく。

「おい、泥つけんなよ。」
「はいはい、真っ白なやつにしよ。」

作るからには、キレイなものを作りたい。
俺は泥や汚れに気をつけながら、雪玉を転がし続けた。
最初は手のひらに乗るくらいだったものが、いつの間にか人の頭ほどの大きさになっていく。
へんに夢中になって、無言のまま、俺たちは作業を続けた。

「出来た?」
「……出来た。」

ニートの作った雪玉は中型犬くらいの大きさで、俺の作ったのは猫くらいの大きさだった。

「なんかちょっと、ちぐはぐになったな。」
「いいだろ。こんなもんだよ。」

俺たちはそれを、アパートの階段下に置いた。
目や口、手なんかは、小枝と石とで工夫した。

「出来たな。」

初めて作ったにしてはちょっと上手くいったと思えて、俺はしみじみそう言った。

「あ。」

ニートは小さな声を上げると、まだらになった雪道を突っ切って大家さんの家に入って行った。
しばらくすると出てきたニートの手には、一輪の花があった。

「寒椿。大家さんに言って貰ってきた。」

カンツバキ。花の名前を口の中で転がすように、俺は復唱した。
寒椿。

「キレイだろ。」

ニートはそう言うと、それを雪だるまの胸に刺してやった。
白い雪だるまの胸元に、赤い花が咲いた。
心臓みたいな赤だった。

ニートは振り向いてヨシと言うと、リヴァイくんといつものように呼んだ。

「冷えちゃったから、家に入ろうか。」

泊まっていってもいいよ。とニートは言った。
俺はうなずいて、ニートの家に入った。
お湯を沸かして、じゅんばんに風呂に入った。
そしてコタツでカードゲームなんかをした後、ニートの布団を借りた。
ニートはコタツですうすう寝息を立てている。
眠れなかった。
俺は音を立てないよう寝床をぬけ出すと、先に乾いていたニートのモッズコートを引っ掛けて外へ出た。
吐く息が白い。
俺は雪だるまの胸に誇らしげに咲いている寒椿を抜くと、ニートの部屋へ戻った。
見つからないように、モッズコートの胸に隠して。
寒椿をハンカチで包んで、それを鞄の中にそうっと仕舞った。
そして布団に戻って、丸まって眠った。

――三日前、俺はニートに告白した。
『あんたのことが好きなんだけど』
どうしたらいい、と訊いた。

ニートは無言のまま、眉毛を下げて、微笑みながら困った顔をした。
ああ、困らせている、と思った。
だから俺は、ジョウダンだ、と言った。
ニートは黙って、煙草を吸っていた。
煙はふわんと流れていった。


数日後、行ってみると、雪だるまは溶けて、ぐじゃぐじゃになっていた。
部屋には誰もいなかった。
何も無かった。
ガランとした部屋で、俺はあいつの声を思い出した。

『花泥棒は、罪にならないんだよ。』

いつか、そう言って俺に、そこら辺のプランターから手折った花をくれた。
その花の名前を、俺は知らない。
知っているのは寒椿だけ。

花泥棒に罪が無いのなら、どうして俺は、ひとりなんだろう。

あの日盗んだ寒椿は鞄の中で、とっくに萎れていた。























 

ピンク色の花
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