花見
ひとり機嫌良く飲んでいたエルヴィン が良いことを思いついたとばかりに振り返ったので、洗濯物を畳んでいたリヴァイはその手を止めた。
「リヴァイくん、お花見に行こう。」
戸惑うリヴァイはそれでも、言われるまま卵焼きとウインナーとおにぎりだけのお弁当を拵えると、最後に麦茶を水筒に詰めて、どこに行くんだと声を掛けた。
「河原沿いに歩けば、どこでも桜が咲いてる。出店もあるだろうな。お弁当は要らなかったかも知れない。」
要らないかも知れない弁当を拵えたリヴァイは少し面白くない気持ちになった。
が、二人で外へ出掛けることなど、コンビニ以外では初めてで、リヴァイはエルヴィンの家に置いたままのパーカを羽織ると、スニーカーを履き潰して転げるようにして外へ出た。
四月の陽気は汗ばむほどだった。
人混みに紛れながら、チラチラと出店を横目で見る。
「何か食べたい?」
「……別に、いい。」
「遠慮しないでいいって。軍資金はわりとあるんだから」
そう言えば競馬がどうこうと言っていたな、とエルヴィンの機嫌の良さの理由を思い出す。
「ほら、焼きもろこし?イカ焼き?冷やしきゅうり?あ、団子屋も来てるぞ」
「……じゃあ、桜餅。」
「渋いな。まあいいけど」
年の割にリヴァイくん、爺むさいとこあるよね、と笑って、エルヴィンは桜餅を四つ買った。
ここら辺にしようか、とエルヴィンが指差したのはまだ咲き始めの、細い若木の近くだった。
人は疎らで、穴場と言えばそうだが、ハズレと言われればその通りな場所だ。
そこへ、雑誌の付録だったという、一畳ほどの小さなピクニックシートを敷いて、エルヴィンは大きい身体を殆どはみ出すような格好で座り込んだ。
手招きされ、リヴァイもしゃがみ込んだ。遠慮して、リヴァイも殆ど草むらの上に尻を置いているような有様だった。
とにかく食べ物だけはとピクニックシートの上に並べると、
ささやかながらそこは二人だけの花見会場になった。
エルヴィンは途中買ったタコ焼きやどて煮なんかを並べながら、またワンカップを開けている。
「まだ飲むのかよ。」
「飲むよ。飲むために来たんだから」
リヴァイくんも飲んだら?と言われ、ヤケクソな気持ちになってプルタブを上げる。
「カンパーイ。」
「かんぱい……」
グビと飲み下すと、喉が痒いような、痛いような感じがして、リヴァイは噎せた。
「えほっ」
「はは。まださすがに早いかあ」
ごめんごめん、やっぱやめとこ。子供はこっちでも飲んでなさい、と炭酸水を渡される。
「うわ、この卵焼き、うまっ。リヴァイくん料理やっぱ上手いなあ」
「なんでまたそういうこと言う……」
「だってホントだもん。」
「……だから、それなら、嫁に貰ってくれよって言ってる。」
「ダメダメ、ニートの嫁に来てどうすんの。」
いつも言ってるでしょ、懲りないね、と笑って流される。
38回目の告白をして、また断られたリヴァイは、潤んだ瞳を悟られないように下を向きながら卵焼きを齧った。
狭いピクニックシートの上で、ふたりは膝も触れないままだった。
手も触れないまま、ただ同じ花を見ていた。