あつい
夏。
道端に陽炎が、空に入道雲がある季節。
妻はこの時期、氷を好んで食べる。
おそらく貧血なのだろうから、医者へ行けと言ってもきかない。
今の時期だけだから、と氷を食べるのをすこし楽しみにしているのだ。
その日、私は勤め先である学校が休みで、珍しく昼、家にいた。
妻、リヴァイは家のなかをコマネズミのようにくるくると立ち働き、座っていることがない。
やっと昼餉のときに捕まえて、割烹着を外した着物の胸元に手を差し入れた。
リヴァイは口でこそ、片付けがある、などと拒むような素振りをしてみせたが、
下の袷に手をのばすと、もう何も言わず、私を受け入れた。
妻は口こそ悪いものの、私に対していつも従順で、よく言うことをきく。
その日も、足を開けといえば開いて、いやらしいソコを私に見せるようにしたし、
上に跨がらせて、動けといえば、ゆっくりと、時に激しく、腰の運動をしてくれた。
事後、気怠い空気の中で、私たちは畳に打ち上げられた海獣のように重なりあって荒い呼吸を整えていた。
リヴァイは乱れた着物を整えることを諦め、襦袢だけになると、ふらりと台所へ行ってしまった。
どうするのか、ジッと待ってみると、リヴァイはコップを二つ、盆に乗せて戻ってきた。
私に水を渡すと、リヴァイは座り込んで向こうを向いている。
また私に貧血がどうの、と言われるのが煩わしいのかもしれない。
カツン、コロロ、とちいさな、本当にちいさな音を立てて、妻は氷を食べる。
口の中で一度氷を噛み砕くと、そのまま舌の上で溶かすようだった。
「リヴァイ、ひとつくれないか。」
リヴァイは答えない。昼餉の片付けもせず、事に及んだことでむくれているのだろうか?
「リヴァイ。こちらを向きなさい。」
少し強い口調でそう言うと、リヴァイはしぶしぶという顔でこちらを振り返った。
襦袢姿のまま、口に氷を頬張っているリヴァイはすこし幼く見える。
「見せてくれないか」
リヴァイはぱこ、と口を開く。
溶けかけた氷が舌の上に乗っている。
舌を差し入れると、ひやりと冷たい。
歯列まで冷えており、なぞるとゾッとしたようになる。
冷たい舌と舌を絡ませるようにすると、リヴァイがちいさな声で、ンと声を出す。
舌の下がリヴァイは特に弱いのだ。
好きなだけ蹂躙し、糸を引いて離れる。
リヴァイは目を潤ませ、熱い、とまるで独り言のように呟く。
「冷たいのが好きか?熱いのが好きか?」
そう私は訊く。
リヴァイは襦袢の裾を握りしめながら、
「……どっちも。」と言った。
コップに入った氷は汗を掻き、いつの間にか溶け始めていた。