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いちご大ふく




ン、と唸るような声を夫が出したので、リヴァイは顔を上げた。

「何だ。」

リヴァイは夫、エルヴィンの腕の中にいる。
洗面所から寝間に延べている布団まで、たまの戯れに、リヴァイを抱えて連れて行ってくれるのだ。
その日も入浴後の身支度を終え、よし運んでやろう、とエルヴィンが言い出したのだった。

新婚時代はとうに過ぎたものの、リヴァイは未だ、夫にゾッコンである。
勿論喜んだが、しかしリヴァイの性格上、なんだ藪から棒に、重いぞ、と億劫さを装ってそう答えた。
はは、まあそう言うな、とエルヴィンは笑って、いつものように、ヨイショ、とリヴァイを抱き上げたのだった。

「……いや、お前、太ったか?」

「……は?」

重いぞ、腰に来る。とエルヴィンは言った。
リヴァイはポカンとしたまま運ばれ、布団と同じに伸べられ、エルヴィンにのしかかられてもそうしていた。
快楽の海に飲まれ、好きに揺さぶられ、いやらしい息も吐き切って、ふたりがグッタリと布団に沈み込んだ頃、やっとリヴァイは口を利いた。

「……デブとは何だ、てめえ。」

いや、そこまで言っていない。それに言い返すのが遅いな、とエルヴィンは思ったが、事後の怠さと、眠気で夢の中へずぶずぶと沈んでいった。



それからだった。
夕食後には、どちらともなく大福や饅頭、かりんとうなんかの茶菓子を出し、お茶を入れてくれるリヴァイが、それをしなくなった。
いや、エルヴィンには出してくれるのだ。
洗い物を終え、戸棚から菓子を出し、茶を入れる。
今日はいちご大福のようだ。白くてまんまるの餅に、真赤で瑞々しい苺の頭がみえる。
しかしちゃぶ台の上にあるのは、一人分だ。エルヴィンの前にだけ皿があった。

「……リヴァイ?」

「何だ。」

「また俺の分だけか?お前のは。」

「用意していない。お前の分だけだ。食えよ」

「いや、そう言われても、食べづらいだろう。半分こしよう。」

「いい。」

「いちご大福、好きだろう。包丁で切ってこようか。」

「要らねえ。お前が全部食えばいいだろ」

「リヴァイ。まさかとは思うがこないだのこと、まだ気にしてるのか?」

「何のことだ。別に俺は何も気にしちゃいねえよ」

リヴァイはぷいと横を向いている。その唇がむっつりと閉じられているのを見て、エルヴィンはため息を吐いた。


「嘘をつけ。……はあ、勘弁してくれ、リヴァイ。」

拗ねるな、とエルヴィンは言って、いちご大福を戸棚に仕舞った。
横目で皿を追いかけたリヴァイの喉がゴク、と上下したのを、エルヴィンは見逃さなかった。

「……半分こするか?」

「いい。……この時間じゃ、太るだろうが」

「気にしてるじゃないか!」

「してねえ。」

してる、してない、いやしてる、いやしてない、の応酬があり、少し息を切らしていつの間にか立ち上がっていた夫婦は座布団に座り直した。

「はあ、リヴァイ。俺が悪かった。それは認める。失言だった。お前がそんなに気にするとは思わず……」

「……いや、俺も当て付けみたいなことしたのは良くなかった。」

二人は小さくぺこ、と頭を下げあって、それで珍しい夫婦喧嘩は終わったかに見えた。

「……でもちょっと、お前肉がついただろう。」

「ああ?」

オイオイオイオイ旦那様よ、やっぱりケンカ売ってんじゃねえか、とリヴァイが細い眉を跳ね上げ、エルヴィンは両手を前で振った。

「違う、そういうことじゃない。これは、その、いいことなんだ。俺は前々からリヴァイの尻はいいと思っていたんだが、もっと大きくなってくれたら、もっと最高だと……」

「は?……尻、か?」

「そうだ。うん、リヴァイちょっと、四つん這いになってくれ。尻はこちらへ」

こちらへって、こちらへってお前、そういうもんでもないだろ……とのリヴァイの語尾は小さくなって消え、最後にはもごもご言いながら、言われたとおりに尻を向けた。

「おら、……これでいいかよ。スケベ野郎……」

洗い物の済んだばかりで、主婦♂のリヴァイは未だ、割烹着を身に着けている。
着物に覆われた尻は布越しでも丸く、細い腰に比べてドンと迫り出しているのが分かった。

「ふうむ。」

「ひッ?!」

エルヴィンは四つん這いになった妻の横で胡座を掻いたまま、リヴァイの尻をパンッと景気よく叩いた。

「ア、てめ……何しやが、」

「まあまあ。」

「んッ」

また、エルヴィンの大きな手のひらがリヴァイの尻たぶのあたりを打ったが、リヴァイの感じている衝撃のわりに、音はそう大きくもない。
エルヴィンは首を捻って、リヴァイの尻を撫でている。

「え、エルヴィん。ちょ……」

「よし、リヴァイ。着物を捲ってくれ。」

尻の形がよく分からない、とエルヴィンは続けた。

「まく……」

リヴァイの顔は羞恥に赤くなった。
勿論、夫婦生活は普段それなりにある。
尻だけでなく、その奥までも晒してしまっているものの、ここは居間であり、食事を取る場だった。
ぶら下がっている電気の傘は煌々と夫婦を照らしていたし、エルヴィンの目が、興奮して爛々と光っているのまで、リヴァイにはよく見えた。

「ほらリヴァイ、早く。確かめるだけだ。」

「ほんとうに、ほんとうだろうな……?」

二人きりだと言うのに、吐息混じりの小さな声でリヴァイは切れ切れに言った。

リヴァイが震える指で裾を摘み、裾は太股、そして尻までを露わにした。
尻たぶには下着が見えるだろうとエルヴィンは思ったが、その予想は裏切られた。
真白な尻たぶには何も無い。
いや、下着はあった。黒のTバック。殆ど紐のようなそれが、割れ目に挟み込まれているだけだった。
確かに、前よりも肉付きが良いようだ。サイドで結ばれた紐が、ほんの少しだけ出来た肉に食い込んでいる。
空気に晒され、白くきめ細やかな肌が粟立つ。

「エルヴィン……」

四つん這いのまま俯いていた妻が、振り返る。
汗ばんで前髪の纏わりついた額までが赤らんで、その表情は期待に満ちていた。
尻の肉までも、同じ桜色に染まる。

「――ああ、多分。すぐ終わるよ」

喉が乾いて堪らない、とエルヴィンは思った。

――ああそう、ひと汗掻いたら、いちご大福を半分こにしよう。

むっちりとした尻に齧りつきながら、エルヴィンはそう考えついたのだった。













 

白い羽毛布団
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