たべる
「エルヴィン。蜂蜜は好きか?」
リヴァイがそう訊ねたのは、私のベッドの上だった。
昨日、私が出資者からの貰い物を分けようと、同じように訊ねたことがあった。
リヴァイは「食べた覚えがない。」と言った。
私は紅茶に蜂蜜を入れる方法があることを教え、彼にその瓶を手渡したのだ。
ほんの気紛れだった。他意は無かった。
私は彼の手に触れたことすら(勿論、性愛の感情を持って、という意味で)なかったのだから、私はもっと驚き、同僚として彼に私の上から移動してもらうように頼むか、上官として命令を下し叱責するかしなくてはならないはずだった。
だが、彼がそうするのを、私はまるで当たり前のような態度で受け容れた。
腹の上に感じるリヴァイの肉体の重みを嬉しくさえ思ったのだ。
その硝子瓶に入れられた、琥珀色の蜂蜜を指で掬い、リヴァイは私の唇に差し出した。
「舐めたいだろう?」
甘いにおいがした。
蜂が集る、花の蜜のにおい。
窓からは幽かに月の光が入り、私に乗り上げるリヴァイの片側だけを照らしている。
私は彼の促すまま、彼の人差し指と中指を舐めた。
突き刺すような甘味が舌に広がった。
そのまま蜂蜜の味がなくなっても、私は彼の指に、手に、舌を這わせ続けた。
青白い肌だった。
こんなにも白かっただろうか、と倒した身体を開いて驚きさえした。
リヴァイは瓶からとろける蜜を掬っては、みずからの胸に垂らして私を促した。
赤子のように胸を吸うと、リヴァイはそれを見つめて口の端を上げた。
蜂蜜の甘さとリヴァイの微笑に、舌と頭が痺れるようだった。
リヴァイの、胸も、腹も、そそり立つそれも、太腿も、その間も、全部がべとべとになる頃、やっと私たちは繋がった。
不思議にぬめるそこは熱く、それこそ溶けて蜜になりそうなほどで、私は何度も白い粘液を吐き出しては、彼と混ざり合おうとした。
リヴァイが達する度に吐き出す白濁を舐めても、すっかり酔ったような私にはそれが、彼の垂らす蜜なのか、そうでないのか、さっぱり分からなくなっていた。
とりあえず彼の身体に付着したものは、何でも余さず舐め取って、自分のものにしたかった。そしてその通りにした。
私が貪欲に彼を欲しがり、酷くむさぼるほど、リヴァイは悦んだ。
その淫蕩に過ぎる微笑に、脳が焼き切れる思いがした。
翌朝、リヴァイの姿はなくなっていた。
全部、私が食べ尽くしてしまったのだろうか?
ベッドの横には、琥珀色をつめた瓶がそのままに転がっていた。
少しも減っていなかった。
朝の強い光が瓶を透かして、黄金に光っているだけだった。
夜、リヴァイを部屋へ呼びつけると、何も知らない目で、リヴァイは捕食者を待っていた。
「エルヴィン、話は何だ」
リヴァイが振り返る。
ランプの火を消せば、あの青白さが手に入る。
鍵はかけた。あとは火を消すだけ。
「リヴァイ。蜂蜜は、好きか?」
瓶は私の手にある。あとは、暗闇を待つだけだ。