アッカーマン温泉へようこそ
――暗やみの中ざあざあと雨音がする。
「オイ、お客さんよ。眠るんなら布団を使いやがれ、折角敷いたんだからな」
横から声を掛けられハッとする。
隣には若女将のリヴァイが座り、こちらへ銚子を向けている。
旅館での夕食の途中だった。
内湯も硝子越しに山あいの川を眺めることが出来、何よりとろけるような泉質の良さに私は最高の気分になった。
旅館で一番上等な部屋だというこの座敷はなるほど調度品も上品で、接待も若女将みずからしてくれる。
どうやら私がお酌の途中で取り落としてしまったお猪口を拾い上がると、若女将は酒で濡れた私の手を布巾で拭いてくれた。
「お疲れみてえだな。無理もねえ、雨の中山を下ってきたっていうんじゃあな」
若女将は細い眉を寄せた。汚れた布巾を下げるときに、袖を押さえる手が美しかった。
派手な顔ではないが、仕草の一つ一つが生業のためにかすっきりと洗練されており、見ていて気持ちが良かった。
「はは、そのようだ。今夜ははやく休むとしよう。明日はこの長雨が明けるだろうか。内湯だけでなく、露天にも浸かってみたいな」
「どうだかな、ここ三日はこのザンザ降りだ。そろそろ止んでもらいてえが、それだけはお天道様に聞くっきゃねえな。」
若女将はてきぱきとした手つきで膳を片付けると、では、ごゆっくり、と言って出て行った。
ひとり旅に倦んで、人恋しい心地になっているのだろうか。
畳についた手の白さ、みじかい爪の薄桃色が、そのあとも目の端に焼きつくように残っていた。
*
止まない雨が窓を叩いている。
布団が捲られるような感じがし、次の瞬間には、やわらかいものが忍び込んできた。
手は細く、かたい印象がある。
その手が寝ている私の胸の上に当てられ、すすす、と下へ移動していく。
腹から臍、そこからは帯の下、浴衣のあわせに手が入る。
入ってきた温かさと手の感触に、頭を擡げ始め、膨らんできていたソコへ辿り付くと、やわらかく小さいものがフウと微笑する気配がした。
「もう、膨らませてやがる。」
熱い息が、やわらかいものの唇のあたり、私の首のあたりに当たった。
そのまま、チュウ、と私の首筋を吸うと、ほっそりとした手は私の下着の中へ忍び込み、直にソレを握った。
久しぶりの、自分以外の感触に思わず、ウウ、と唸るような声が出てしまう。
その反応に気を良くしたのか、また微笑する気配があって、手はやわやわと私のソコを握り、あからさまに愛撫し始めた。
あっと言う間に大きくなったソレは布団の中で、その手の中で反りかえり、もっと触ってくれ、あわよくば、もっと熱く、狭いところへ導いてくれと震えている。
もういっそ、その手ごと握り込んで、腰を振って出してしまいたい衝動があった。
けれどどうしたことか、私の手も脚もピクリとも動かないのだ。
まるで金縛りのようにガッチリと固められた私の身体を、いやらしい手が往復する。
当たっている吐息もどんどんと熱を上げ、もはや呼吸は随分と荒い。
「アア、もう我慢できねえ。入れる、いいな?」
ついに私の上に跨り、ペタリと吸い付くように私の胸に頬ずりすると、ゆっくりと顔を上げた。
果たしてそれは、若女将のリヴァイだった。
夜目にも分かる、湯上りのような桃色の肌を上気させているその様は、あきらかに発情していた。
「欲しい、なあ、アンタもそうだろ。入れたくて堪んねえだろう」
言いながら、ゆるゆると私のソレの幹を扱き上げる。
布団に縫い付けられたように動けない私はそれでも、ウウ、ああと唸って首を縦に振った。
若女将は私のその肯定を喜ぶように目尻を緩めると、私の口へ接吻した。
チュ、チュウ、と吸われ、やっと開いた口へ舌を挿し込まれる。
舌先で口の中を掻き回されるように蹂躙され、ソレに当てられている、若女将のやわらかく、濡れて、とろけそうな部分へ自分の猛る切先を当て、腰を揺らして前後させた。
金縛りのぶざまな私にはこれくらいしか出来ない。
しかし若女将は私のその動きに感じ入るように顎を上げると、また私を見て、とろんとした恍惚の表情をした。
「なんて、ア、いい男だ……。ハア、いい子、ン、入れさせてやるからな」
熟れて赤らんだ舌がまた口中を乱しながら、私の先はズブブ、と若女将の熱いソコに飲み込まれていく。
粘膜にじっとりと絡みつけられるような感触が、とても気持ち良かった。
「いい……!アア、もっと!」
そこで、私の意識は途切れてしまった。
*
ざあざあと酷い雨音だ、と思ったらそれは直接、私の耳に流れ込んで来ていた。
崖の下に投げ出され、どこが痛むのか分からないくらいに全身が痛かった。
そこへ雨がざんざと降りかかるたびに、しくしくとよけいに痛むのだった。
愛車は近くでひしゃげて潰れたようになっている。
「なんだ……地すべりか?」
雨が酷くて、姿がハッキリとみえない。
「こりゃあ、とんでもねえお客さんが来たもんだな……」
ざり、と濡れた地面を踏む音がする。
草履の足先だ。
そこで、私の意識は途切れてしまった。
――暗やみの中ざあざあと雨音がする。