ニート24h
第四話
くる
pm5:00
むかし、女がいた。口数は少なく、ただ、そこにいるだけ。陰気で、おびえているくせに、挑発的な目をしていた。他には? 他にはない、これっぽっちも。思い出さない。俺は明確な意志のもと、その女を思い出さない。
ただ、リヴァイ君のその目が。あいつに似ていると言いたかっただけだ。そこにはなんの感情も含まない。いま眼に映るものとむかし目に映っていたものを重ねて、似ていると。判断しただけ。
そう、俺は描写だけする。起こることだけを。目に映るものだけを。怒りのような、俺が感じていること? それから、恐怖のような、リヴァイ君が感じているらしきこと。?、や、らしきこと、は排除して語る。幸福も不幸も、だからそこには一切がない。
それで、いまは。リヴァイ君のズボンのベルトを外すことができなくて、チャックを開けた。小さな……ペニス。陰茎? ちんぽ? おちんちん? 俺はさっそくつまづく。なんというか、あまりに表現しがたかったのだ、滑稽なそれが。いやいけない。心情は消し去るべきだと俺は思うのに。そのくらいの葛藤がある、その、リヴァイ君の股間にぶら下がったそれを。俺は口に含む。
「あ、ばか、やめ、」
舌で刺激する。するとそれは重力に逆らって、次第に形を持ち始める。そして、眼前には毛も薄くなだらかな肌色のカーブ。顔を埋めると青臭さが鼻をついた。青。まだちゅうがくせい、だもんなあ。よりいっそう、刺激を加えて。執拗に。なぶるように。あっあっあっ、と声がする。小刻みに。震える。表情はやはり見ることができない。もうすっかり暗いから。頭を掴まれている手の力は弱い。腰を掴んで貪った。
汗が垂れる。体液が垂れる。俺の顔を。リヴァイ君の足を。
そして熱気。
その瞬間、意識が飛ぶ。
pm6:00
目が覚めて、布団の上に自分の身体があった。額に、冷たいものが乗せられていた感触がある。いや、いまも乗っかっているのだけど、ぬるくて、ぬるい……え? なに?
がば、と起き上がると、うわ、と声がして、目の前でリヴァイ君がのけぞっている。
「なにこれ、え、いま何時」
「……ろくじ、はんくらい」
こうして時間を尋ねても、なにがどのくらい、どんなふうに、とか。結果としてなにをもたらして、みたいな。全然、わかるはずがない。自分がしたことだけが脳みそにこびりついて、それ以外のことはきれいさっぱり流れてしまっている。
pm7:00
しばらく身動きがとれずにいて、汗が、あごから手のひらに落ちた。ぽちゃ、と。音が響くかのような沈黙のなか。額から落ちたぬるくなったタオルでそれを拭いて、そのまま顔をぬぐう。それを手の上で持て余した。どれも緩慢な動作。静寂を破るには至らない。
ずるい、ひどい、きたない。
罵れよ。目の前でなにもせずうつむいたりこちらを見たりしているガキを目の前に、そうやって言いたくなる。罵って逃げろ。ガッコーの判断基準はとうに超えてるだろう。
それなのに。
「飯にしよう」
そう言って立ち上がるこいつは、もしかしたらいたいけでもなんでもないのかも。事実だけを語る俺の試みは生きている。だからこれは、ただのリヴァイ君なのだと、そう思う。天使でも悪魔でもない。それは主観だ。
宗教なんて酔狂は早く捨てろ。父さんの言葉を思い出す。目の前のことだけを。起きていることだけを信じなさいと言ったのは自分の父親だったのだ。体の熱がふたたびのぼる。
すがるものはあなたでしたと、そう伝えたら? それでも、早く捨てろとあの人は言うだろう。
夏の夜の暑さが、昼とは形を変えてじわじわと部屋を埋めつくす。でも俺は、平然を装い。飯。なにつくるの、と尋ねるのだ。