ハッピー犬デイズ
りばいくんはぜんたい、目付きのよくない外見とは裏腹に、優しい子でしたから、その日も捨てられて弱っているモブおじさんに、その小さく清らかな手を差し伸べたのでした。
「……きゅうん、きゅうん」
粗末なダンボールにみっちりと嵌っているモブおじさんは太ってはいましたが、眼鏡は曇っていて艶がなく、ブリーフの一枚も身に着けていないために、冷たい雨に打たれて震えていました。
「寒かったろ。」
りばいくんはお気に入りのみどり色の雨傘を、モブおじさんに差し出しました。
「……付いて来い。給食の残りで良けりゃあ、コッペパンと牛乳をもらってきてやるから」
タオル代わりにとりばいくんがかけてやった体操着に頬ずりしながら、捨てモブおじさんは弱々しげに「きゅうん。」と鳴きました。
*
「おっさん。待たせたな、今日はプリンだぞ」
おっさん、と名づけられたモブおじさんは、尻尾こそないものの、わふわふと息を荒げてりばいくんに嬉しさを必死で伝えます。
ひみつきちと呼ばれるりばいくんちの物置は、雑然とはしていましたがそれなりに広く、モブおじさんはスッカリ寛ぐようになっていました。
お布団を二枚も敷けばいっぱいになってしまうでしょうが、モブおじさんはダンボールがお気に入りのようだったので、りばいくんはたまにきれいなダンボールを見つけると、寝床の古いダンボールと取り替えてやるのでした。
「食べずに取っておいた。ちょっと温いかも知れねえが」
「きゅん!きゅうん!」
ランドセルから取り出したプリンの蓋をめくってやると、待ちきれなかったのかモブおじさんが身を乗り出してりばいくんに迫ります。
「おいおい、待てだ、待て。できるな?」
「きゅう~~~ん……」
切なげな声を上げたモブおじさんはワンコスタイルでちゃんと『待て』をしています。
こないだ教えた『ちんちん』の姿勢です。
モブおじさんの大きな『ちんちん』がだらりと股間から垂れ下がっていましたが、りばいくんは勿論気にしません。
「待て……待てよ……」
「きゅう~~~~~~ん……ッ」
「……ヨシッ!」
「きゅわん!わんわんッ!」
「あッ、コラッ……」
号令を聞いて喜び勇んだモブおじさんは、勢い余ってりばいくんの胸に飛び込んできました。
プリンはひっくり返って、りばいくんのTシャツのカエルのプリントにそっくりそのまま、落ちてしまいました。
「わんッ!わふッ!」
「ア、ちょ、ま、待てって、アッ!」
Tシャツの胸元のプリンめがけて、モブおじさんのお口が突進してきます。
りばいくんよりずっと大きいモブおじさんに圧し掛かられては、りばいくんはぜんぜん動けそうにありません。
「わ、ァッ?!」
モブおじさんの大きくて分厚い舌がぺロリ、りばいくんのTシャツ越しのお胸を舐め上げました。
「おっさ、んッ、ダメ、駄目だッ」
「わう!わはふん!」
「あ……ッ!?」
ベチョベチョと音を立ててモブおじさんがプリンを啜ると、りばいくんのお胸がビクンビクンします。
その反応が面白いのか、プリンはもうスッカリ無くなってしまったのに、モブおじさんはお胸から離れてくれません。
「わっふ!わふ!フン!?」
「や、ぁ……ッ!くすぐった、ァッ?!ひゃめ、ひゃめてぇ、ひゃめてくえ……ッ」
モブおじさんはTシャツに残ったプリンの味を名残惜しむかのように、ちゅうちゅうと吸い上げました。
お胸がツクンツクンと尖って、尖ったところがジンジンして、変な気持ちです。
りばいくんはスッカリ涙目で、くすぐったくて笑っているのか、震えているのか、気持ち良いのか分からなくなってきました。
どうしてだかおちんちんが熱くなってきたので、モジモジと足を擦り合わせました。
「おっさん、ダメだ、まて、待てって、……ヒッ!?」
「ひゃうん?!」
あるものを見つけてびっくりしたりばいくんは、モブおじさんを突き飛ばしてしまいました。
モブおじさんはすってんころりん、物置のはじまで転がって行くと、ひゃうん、ひゃうんと情けない声を上げています。
「そ、ソレ……ッ!ソレ、何だよッ、おっさん、病気になっちまったのか?」
りばいくんはふるふるしながら見つめているのは、モブおじさんの股間です。
そこにはガチガチに勃起して奮い立った雄のイチモツが鎮座していました。
ビンビンのバキバキに青筋が浮いて、筋肉質な赤黒い芋虫のようでした。
「ばい菌が入っちまったのか……ッ?とにかく、医者だ、ナイルのヒゲに見てもらわねえと!」
獣医のナイル先生の名前を出すと、モブおじさんの顔色が変わりました。
「きゅう~~~っきゅう~~~っ」
「鳴いたってダメだぞ、ちゃんとお医者に行かねえとな。ア、よぼうせっすってやつも、してもらわねえと、」
「きゃわん!わほふ!」
「あっ!おっさん!」
青褪めたモブおじさんはバタバタと慌て出したと思ったら、鍵の開いたままだった物置の扉をがらりと開け、走っていってしまいました。
「おっさん!おっさん!」
りばいくんはこれは大変だと、急いで外へ出て、モブおじさんを探し始めました。
*
「おっさん!おっさ~~~んッ!」
りばいくんはきょろきょろと注意深くまわりをみながら、町中を探しました。
どんなに大きな声で呼んでも、モブおじさんは出てきません。
いったいどこへ、病気もしんぱいだ、とりばいくんが焦り始めたとき、それが姿を現しました。
「ウゥ~~~~~ッ!」
野良のモブおじさんです!
筋肉質な肉体はこんがりと小麦色に焼け、オイルに光っています。
もちろん裸ですから、股間で主張をする凶器は剥き出しに反りかえり、りばいくんを脅すようにゆさゆさと重そうな袋が揺れていました。
「ハーッ!ハーッ!」
「ひ、気持ち悪ぃ!」
りばいくんが後ずさった分だけ、黒モブおじさんが距離を詰めます。
カチカチのモノの先は腹へつくほどです。
ああ、イタイケなりばいくんが、黒モブおじさんにモブレされてしまう!その時でした。
「何しとんや、ワレェッ!」
「フン?!」
「おっさん!!!!」
黒モブおじさんとりばいくんの間に立ち塞がったのは、おっさんでした。
「りばいくん!もう心配いらんからな!おっさんがついとる!」
モブおじさんは黒モブおじさんに向かって行きました。
モブおじさんは白くって、太っていて、眼鏡で、ハゲなのに!りばいくんはモブおじさんがやられちまう、と一瞬目をつぶってしまいましたが、ところがどうして、地に伏せているのは黒モブおじさんでした。
「失せろ。二度とそのコパトゥーン臭い顔を見せるな」
キャウンキャウンと情けない声を上げて、黒モブおじさんは退散していきました。
「おっさんッ!」
「おっと」
りばいくんはギュウとモブおじさんの太った身体に抱きつきました。
汗でぬめっていましたが、りばいくんは気になりませんでした。
強く、強くモブおじさんを抱き締めました。
「ありがとな……ッ!」
モブおじさんは黙って、りばいくんの背中をぽんぽんと叩きました。
いつのまにか、股間のソレもりばいくんの感謝に応えるように立ち上がって、ひこひこと首を振っています。
「……ちゅうしゃしなきゃなんて言って、ごめんな。おれ、先生にちゅうしゃやめてくれって、頼むから。」
「くうん。」
「だから、帰ってきてくれよ、おっさん。」
「きゅうん、きゅんきゅん。」
モブおじさんは、もちろん!と言うように、りばいくんに身を擦り付けました。
股間のアレもグロテスクではありましたが、見慣れれば犬の尻尾のようです。
ふるんふるんと揺れているのが、可愛らしい気もしました。
「帰ろうぜ、おっさん。」
「わん!」
さっき、何か喋ってなかったか?とりばいくんが首を傾げるのを、わふん?と真似して、モブおじさんも小首を傾けます。
それがゆかいで、りばいくんは笑いました。
一人と一匹は、いつものとおり、仲睦まじげにお家に帰ってゆくのでした。