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リヴァイちゃんの飴玉




ふと気がつくと、ぼくは彼女のチュッパチャプスになっていた。



はすっぱな眼差しを前髪に隠した彼女は、ぼくの憧れのリヴァイ・アッカーマンちゃんだ。

少し大きめに買ったらしいセーラー服の肩を、ダボダボのカーディガンに仕舞って、彼女は学校を歩く。

彼女はぼくの学校では少し浮いていて、それは彼女が、この学校では珍しい母子家庭だったり、それが吃驚するような美人のお母さまだったり、そのお母さまがたまに授業中に来て、彼女を連れ出しているからだと思う。

「リヴァイ、いらっしゃい。」

リヴァイちゃんのお母さまの、鈴を振るような綺麗な声がして、リヴァイちゃんが振り向く。
そしてリヴァイちゃんはその時開いていた、国語のノートなんかを閉じて(リヴァイちゃんは意外に、字が上手だ。)それを机の中の教科書たちと一緒にまとめて、彼女の通学鞄に仕舞ってしまう。
リヴァイちゃんは几帳面なようでいて、意外に雑というか、どこか投げ遣りな態度で、筆箱や下敷きを重ねて、鞄へ放り込む。

鞄を持つと、リヴァイちゃんはお母さまを追いかける。
お母さまは廊下の少し先で待っていて、いつも少し微笑んでいる。
そしてリヴァイちゃんが追いつくと、手を繋いで、校門の裏に停めてある黒塗りの車に乗り込んでいくのだ。
そのあいだ、リヴァイちゃんは口を利かない。
むっつりと黙り込んで、投げ遣りに支度して、俯いて帰っていく。
どうしてリヴァイちゃんのお母さまが、放課後にならないうちにリヴァイちゃんを攫っていくのか、ぼくらは知らない。


リヴァイちゃんは友達がいない。
(いるにはいるんだけど、保健室登校のナナバさんだったり、変人と名高いハンジだったりする。)
そんな理由で遠巻きにされているからだけど、みんな実は、リヴァイちゃんにほんの少し憧れてる。
リヴァイちゃんは運動神経がばつぐんで、陸上の大会で何度も優勝している。
リレーのアンカーで走るリヴァイちゃんは、本当に風のようだった。
お習字もお裁縫も得意なリヴァイちゃんの作品は、よく校内に飾られていた。(絵は上手じゃないみたいだ。)

リヴァイちゃんはそんなわけで、ちょっと目立つ。
そのせいで怖い女の子たちに呼び出されても、次の日リヴァイちゃんは、何もなかったような顔をして登校してきた。
しばらく来なかったのは女の子たちのほうで、理由を訊かれても、彼女たちは真青な顔で首を横に振るだけだった。

そんなところも含めて、リヴァイちゃんは少し浮いてるんだけど、みんなやっぱりちょっと憧れているんだ。
ぼくもそのひとりだった。


けどぼくは今何でだか、リヴァイちゃんのチュッパチャプスになって、リヴァイちゃんのちいちゃなお手手の中にいた。
リヴァイちゃんのお手手はちいちゃくって、白くって、湿っていてもちもちする。
ぼくの棒の部分はリヴァイちゃんの、そんなお手手に包まれて恍惚としている。

ぼくの、丸い飴の部分、チェリー味のその部分だけど、そこへ、リヴァイちゃんの舌が近づいてくる。
唇を薄い桃色だと思ったけど、舌は毒々しく赤くって、ぷつぷつとして、イチゴみたいだ。
ぼくのチェリーと、ソーダの部分のしましまを見て、リヴァイちゃんのお口がよだれを増やしている。
ひたひたに濡れた舌が、ついにぼくの丸い飴の部分へ触れた。

「あっ。」

ぼくは大声をあげたけれど、ぼくはチュッパチャプスなんだから、声なんて出ない。
リヴァイちゃんの舌が、ぼくをゾロリと舐め上げて、ぼくは震えた。
「あっ。わああ。」
ぼくのからだは、リヴァイちゃんの唾液で溶かされ、リヴァイちゃんのお口へ取り込まれていく。
リヴァイちゃんはしばらくひたひたとぼくを舐めていたけれど、ついに、ぼくをお口に挿し込んだ。
熱い!
リヴァイちゃんのお口の中は熱くって、びしょびしょに濡れていて、やわらかかった。
リヴァイちゃんがぼくをコロコロと転がすように舐めるうち、ぼくはゆるゆると溶けて、ずいぶんな夢見心地になった。
カラコロ、くちゅ、カラコロ、くちゅ。
リヴァイちゃんがぼくを、お口の中に入れて可愛がってくれている!
たまに、リヴァイちゃんの頬の内側へキュッと吸いついたりして、ぼくは喜びを表した。
リヴァイちゃんの唾液はどんどん増えて、それで溺れそうになるのも、ぼくには嬉しかった。
リヴァイちゃんに包まれている。
原初の海に肉体を溶かすように、ぼくはリヴァイちゃんの中でたゆたうことが出来るんだ!
恍惚としていた、そのときだった。
「え?」
リヴァイちゃんの、固い奥歯がぼくに当たっている。
コロコロ、カリ、コロコロ、カリ。
リヴァイちゃんはぼくを転がしては、噛み締めはせずに、ぼくを奥歯のあいだに招く。
待ってくれ、リヴァイちゃん。
ぼくはまだ君といっしょにいたい。
君の唾液に溺れて甘い息継ぎをしたいし、君の粘膜をお布団にしてうたた寝だってしてみたいんだ。
舌で転がすみたいにされるのだって、とっても気持ちよくって、ああ、リヴァイちゃん!
待って、リヴァイちゃん!リヴァイちゃん!
ガリッ。
ついに、その一撃が加えられた。ぼくの身体はすっかりリヴァイちゃんの奥歯で砕かれてしまった。
ぼくは、粉々になってしまった。


……っていう、妄想から目が覚めた。

現実のぼくは冴えない顔をして、だらしなく木陰に立って、リヴァイちゃんを眺めている。
放課後、職員室の前で見せびらかすようにチュッパチャプスを舐めているリヴァイちゃんを。
リヴァイちゃんは職員室の扉が開くたび、チラチラとそちらを盗み見ている。
だぶだぶのカーディガン。チュッパチャプスを持つ白い手の甲まで隠してしまっている、カーディガン。
膝上のスカート。紺のハイソックス。短く切りそろえられた黒髪。
目つきはあんまり良いと言えなくって、その瞳はソワソワ、職員室をみつめている。

リヴァイちゃんは可愛い。とても可愛い。
けれどそれは、リヴァイちゃんが恋をしているからなんだ。
一方通行の恋を。
リヴァイちゃんは今日も、お目当ての先生に注意されたがって、チュッパチャプスを舐めている。
ぼくだけがその恋を知っている。
ぼくが手伝ったなら、もしかしたら、リヴァイちゃんは両想いのしあわせな女の子になるのかも知れない。
それとも、仲よくなったぼくに、チェリー味のキスをしてくれるかも。

けど、ぼくは何もしない。ぼくはただ見ている。
だって恋が叶ってしまったら、彼女がチュッパチャプスを舐めなくなってしまうから。
恋するリヴァイちゃんは可愛い。とても可愛い。

リヴァイちゃんは今日も、先生への恋で、チュッパチャプスを溶かしている。












 

キャンディ串
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