仕草
世の中にはいろんなフェチがあるが、俺の場合は手かもしれない、とふと思った。
というのも、目の前にクソ好みのイケメンがいて、ヤツの手があるからだ。
イケメンの名はエルヴィン・スミス。
俺のオフィスは五階、ヤツのオフィスは六階から上だ。
喫煙室は地下にある。
そう広くない喫煙室で顔を合わせていれば、話すようになるのも自然のことだった。
薄いピンクのシャツにノーネクタイで腕まくりをしている。
腕に生えている毛も髪と同じ金色に輝いている。
今日もまた一段と男前だ。
「どうした、リヴァイ。」
「いや、別に。ぼうっとしてただけだが」
「そうか?」
「そうだ。」
缶コーヒーを飲んでいたエルヴィンは胸元から煙草の箱を取り出し、一本引き抜くとまた箱を仕舞った。
カシャン、と小気味のいい音がして、高そうなライターの蓋が開く。
咥えた煙草に火を点けると、ふう、と煙を吐いた。
人差し指と中指で煙草を挟んでいる。
その指が、たまらない。
体躯と同じに大きな手に、長い指。
よく見れば、指に生えている産毛すら金色だ。(それはそうか。)
手の甲には血管が浮いていて、薄っすらと青い。
指が動くたびに、その筋も見えたり見えなくなったりする。
爪は平たく、関節の目立つのが男らしいと思った。
――あの手で、指で触れられたら。
自分はどうなってしまうだろう。
裸の脇腹の下から上へ、ゆっくりと辿るように撫でられたら。
きっと肌は粟立ち、悦んで鳥肌を立ててしまうだろう。
身を捩ったら、追い打ちをかけるようにあの指が攻め立ててくる。
長く、器用そうなあの指が。
まずどこに触れるだろう。胸の先か、それとも――。
真昼間なのに、いけない妄想が止まらない。
気がつけば、軽く勃起してしまっていた。
まずい。大変に、まずい。
背を預けていたバーに浅く腰掛けると、俺は足を組んだ。
左太ももに乗せた右の太ももはエルヴィン側だ。
重なっている部分は死角になる。
エルヴィンの他には誰もいない。
よし、と思った。
「リヴァイ。あの件、考えてくれたか?」
「は」
「は、じゃないだろう。引き抜きの件だ。話したように、あとはお前が決断するだけだ」
「ああ、それな。それだが……」
よし、落ち着いた。
話に集中しなくては、と思ったその瞬間、また俺はエルヴィンの手を見てしまった。
灰皿の上に手はあった。
中指と親指に挟まれた煙草に、人差し指が上下して、トン、と灰が落ちる。
その人差し指の動きだけで、俺はまた。
勃起してしまったのだ。
「リヴァイ?……リヴァイ?」
顔赤いぞ、どうした、何だ?とエルヴィンの声がする。
俺の手にもあったはずの煙草が、今は見当たらない。
喫煙室が狭いのがいけない、と俺は思った。
引き抜いてもらったら、オフィス移転を考えてもらおう。
喫煙室の広いところ、とそう思った。