大好き!
リヴァイくんの姿を、最近見ない。
最近見ないとふと思いながら歩いていたら、本人を見つけてしまった。
顔の半分を覆うマフラーと、マスク。
風邪でも引いていたのかなと思って、おおいと声を掛ける。
「おーい。リヴァイくん!」
リヴァイくんは俺の姿を見とめた次の瞬間、脱兎の如く駈け出した。
俺から逃げ出したのだ。
俺も何故か、リヴァイくんが逃げ出した瞬間、駈け出した。
逃げられると追いたくなるのが男の本能というものだ。
今日知ったことだが、リヴァイくんはかなり足が速い。
いや、こないだリヴァイくんは体育祭だかで、リレーのアンカーを走るとか言っていた気がする。
なるほど、エグいほど速い。
リヴァイくんとの距離はなかなか縮まらない。
俺は一旦止まって、リヴァイくんが角を曲がるのを見届けると、横の道へ出た。
この先にはリヴァイくんの住む寮がある。
ということは、この角を曲がって、一旦商店街へ出るはずだ。
この辺りの道は、暇を持て余した俺によって完璧に把握済みだ。
駆けながら考える。
リヴァイくんという、へんな中学生のことをだ。
やたらにぐいぐい、まるで通い妻のように家に通ってきたと思えば、
期末テストだか風邪だか何だか知らないが、ポッと来なくなる。
飽き性、なんだろうか。俺はもう飽きられたのだろうか。
あまりにもぐいぐい来るものだから、からかってやれとキスをしたのがいけなかったのだろうか。
まあ普通に考えてソレだろう。
何となく懐いたオッサンんちで遊んでいたらキスされてドン引きする。うん、普通だ。
けどどうしてか、リヴァイくんと遊んだゲームを一人で攻略してもつまらず、途中で投げてしまった。
リヴァイくんと食べたスナック菓子も、リヴァイくんと飲んだ牛乳も。
何だか味がしなくて、食欲も無くて。外を暇つぶしに散歩すれば、近所からのヒソヒソ声だ。
どうせ不審者情報にでも回されているのだろう。
抜け道のどんつきには塀がある。
助走をつけて駆け上がれば、角を曲がったリヴァイくんが気付かず近づいてくる。
すごいスピードだ。
「リーヴァイくん!」
叫んで飛び降りると、胸にリヴァイくんの顔がべちっと張り付いた。
「わ」
「わっぷ!」
体勢を崩したリヴァイくんの腕を思わず掴む。
自分の胸に再度抱きとめる形になり、勢いのせいで俺は転んで、リヴァイくんがそれに重なる。
へんに重なったまま、リヴァイくんを見上げる。
「あれ。」
マフラーがずれ、マスクが取れたリヴァイくんの顔には、『大好き』の文字が張り付いている。
これはアレか、最近流行りだっていう、みょうな病気だ。
心の声がべったり、MSゴシックで文字として浮き出てしまう。
とびきり強い心の声を、だ。
「なにそれ……」
思わずプッと吹き出してしまうと、リヴァイくんは顔を真赤にした。
「うるせえ、誰のせいだと思ってんだ!」
リヴァイくんが、殆ど涙目になりながら、俺にそう言った。
マフラーとマスクを、まとめて投げつけてくる。
「ぬわ」
俺のせいなの、と言おうとした。
が、声が出ない。
顔が熱い。
そうか、リヴァイくん、俺のことが大好きだったんだ。
「ホントに……?」
続きを尋ねようとした。
俺のことが大好きかって?
いい大人が、馬鹿みたいだと思うだろう。
あ、とリヴァイくんは声を上げた。
そして、熟した林檎のようなホッペをもっと赤くした。
耳まで真赤だ。可愛いなあ。
手を引かれて歩き出す。
俺のアパートに着く。
リヴァイくんは無言のまま、俺をぐいぐいと押して洗面所に追いやった。
そして鏡の前に立たせると、バンと扉を閉めた。
鏡の前に、呆けている俺の姿が映る。
扉一枚隔てて、そこにリヴァイくんがいる。
逃げ道は、無い。
――どうしよう。もう何も、うそは吐けない。