聖母
ぼくの通う中学校は、ぼくの住む村からは一山越えないといけません。
ぼくとリヴァイくんだけが、村から町の中学校へ通っているから、帰り道もいっしょでした。
「リヴァイくん、今度のリレー、またアンカーなんだろ?」
「……どうだろうな。推薦はしてもらったが、まだ決めてない。」
「すごいや、リヴァイくんは。村の誇りだって、うちの父さんも言ってたよ。」
リヴァイくんは、煽てるな、と言ってフイと横を向いてしまいました。
リヴァイくんは実際運動神経が良くて体育は何でも出来ましたし、勉強の成績も良く、みんなの人気者で、ぼくの自慢の幼馴染なのでした。
山道をふたりで歩いていると、村の商会会議所の偉いさんを勤めるAさんとBさんとが、太った身体を揺らしながら歩いてきました。
「こんにちは。」
「ああ。……こんにちは。」
おじさんたちは挨拶をしてすれ違うとふたり身を寄せて、何事かヒソヒソと喋って、ニヤニヤと笑っています。
ぼくは何だか厭な気持ちになりましたが、リヴァイくんは慣れた顔をして、「行くぞ。」と言うと、何でもないように歩いていってしまいました。
けれどぼくは、リヴァイくんの白い頬が、村の縁日の金魚のように、ぽおと赤らんでいるのを見てしまっていたのです。
*
はあ、はあ、はあ。
夜中に家を抜け出したということと、ひと息に坂を駆け上がった息苦しさで、心臓が破れそうに痛みました。
子どもは近づいてはいけないというその洞窟は村の神社の森の奥、くろぐろと大きな口を開けていました。
ぼくがここへ来るのは、もう三度目でしたから、月の光しかない森も、照明のない洞の中も、塗り潰したような真っ暗やみでしたが小さな懐中電灯ひとつで歩いてゆけるのでした。
道の先には、モウ人が集まっていました。
祠へ並ぶ人たちと、それを囲んで台の上を見上げる人たち。
台には、アア、蛇の腹のように白いからだを揺らめかして、巫女様が舞っています。
緋の袴はもうほとんど脱げてしまって、足首のあたりに引っかかっているばかりです。
薪が燃え、煌々と照らされた台では、儀式が行われていました。
それは、御柱孕みの儀と呼ばれていました。
巫女様の裸身へ縋るようにへばりついたAさんは、一心不乱にへこへこと腰を振っています。
ぶよぶよと太った背中からビチョビチョに掻いた汗が飛び散って、蝦蟇蛙そっくりの姿でした。
蝦蟇蛙に取り付かれた巫女様の肌にも汗の玉は浮いては垂れ、浮いては垂れましたが、それはふるいつきたくなるような、いとおしい水分なのでした。
揺らされるたび、巫女様が、ああ、ああと声を上げます。
蝦蟇蛙に貫かれ、玉の汗を掻いて、いやらしい声をあげるその人は果たして、同級生のリヴァイくんでありました。
「うおッ、ありがたやッ、ありがたや、巫女様ッ、うお~……ッ」
「あッ、アッ!ああ~~~ッ!」
蝦蟇蛙がリヴァイくんの小柄な身体を押しつぶしながら、バチュン!バチュン!と振り下ろして叩き付けるように腰を振ると、リヴァイくんは赤らんで汗だくの顔を歪め、オッ!オッ!と悦びます。
焦点の合っていない目は殆ど白目がちでした。
誰より足の速くて、頭の良いリヴァイくん。
女子にも人気で、体育の時間は黄色い声援が飛ぶこともしばしばでした。
みんなの憧れ、ぼくの憧れの、格好良いリヴァイくん。
そのリヴァイくんは今目の前で、ズッポリとアソコに男のモノを受け入れて悦んでいます。
みずから大きく脚を広げて、蝦蟇蛙の醜い背中にしがみつき、腰を揺らめかせて。
開いた口からはだらしなく舌が垂れ、唾液がパタパタと落ちてゆきます。
ンア、アア、はあ、ンア、と、髪を振り乱しながら、もっと、もっととチンポを強請って。
ぼくの初恋だったひと。
「ああッ、いい、いいッ!はらみたい、孕ませてぇッ、あ~~~ッ!」
大層な巫女様だ、村の御柱様の子が産めるなんて、本気で信じてらっしゃるらしい、と下卑た笑いの男たちは台の上を仰ぎ見ています。
列に並ぶ男たちの列は尽きず、祠の夜は更けてゆきました。
*
事を見守っていた神主がそこへ水の入った盥を置いて去る頃には、そこは巫女であるリヴァイくんと、覗き見ているぼく以外、誰も居なくなっていました。
リヴァイくんはグッタリとして、緋袴の中で円くなるように蹲っています。
太股から尻の桃色は、男たちの出した白濁がベッタリとついて汚れていました。
髪も濡れてところどころ、泣き疲れて腫れた瞼に張り付いています。
子守唄が聴こえます。
リヴァイくんが、己の腹の子に歌ってやっているようでした。
「へび、のゆりかご、は、ゆうらり、ゆらり……」
ゆったりした様子で、何もいないはずの胎をいとおしむように、ユックリ、ユックリ摩っています。
ぼくはその様子をみるために、ここでジッと待っていたので、リヴァイくんがちいさな声で口ずさむその歌を聞き漏らすまいと、身を乗り出して聴いていました。
「はやく出てこい、運動会で母さんが走るの、見たいだろ?」
お前のために、一等賞を取ってやる。
リヴァイくんは心底いとおしそうに、胎の子へそう語りかけると、また子守唄の続きを歌い始めました。
ぼくはその姿をみて、ああ、ぼくのかあさんはこの人しかいない!と、その気持ちを強くするのでした。
あの膝に縋って、おとうとを待つように、胎へ耳をつけられたなら。
ぼくの初恋だったひと。
リヴァイくんは、温めるように緋袴を手に取り、腹へ掛けました。
あ、動いた、とほんの少し笑って。