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白やぎさんからお手紙ついた
黒やぎさんたら読まずに食べた

しかたがないのでお手紙書いた

「さっきの手紙のご用事なあに?」



*

(傷)

*






「リヴァイ!」

飛び込んできたエルヴィンは息の上がったまま、室内にリヴァイの姿を見とめると駆け寄って腕に抱き込んだ。
せんせい、と呟いたリヴァイは安堵のあまりか、膝を付くようにしてエルヴィンの腕の中でくずおれた。

「怪我は?!」

ふるふる、と強く頭を振るリヴァイの顔を上げさせ、その眦に涙の跡を見つけると、エルヴィンは弟を睨んだ。
器具庫内の蛍光灯は切れ、プールからの光が射していたが、弟の立っている側には暗闇だけがあった。

「どういうことだ、エーリヒ!」

「ああ、随分久しぶりだ。兄さんに名前を呼ばれるのはね。エルヴィン」

口を歪めて笑うエーリヒに憎悪の視線を向けながら、エルヴィンは強くリヴァイを抱き締めた。

「せんせえ・・・・・・ッ」

「リヴァイ、すまない、怖い思いをさせたな。もう大丈夫だ」

ぎゅうと抱き締めあう二人と佇む男のあいだへ、小さな影が差し入った。
器具庫のドアに手を付き、不思議そうな様子で中を伺っている。

「おじさん・・・・・・?」

エルヴィンを追いかけて走って来た少年は、リヴァイとそっくり同じ容姿をしていた。
小柄な身体、黒髪、猫のような灰色の瞳に桃色の唇、半ズボンから突き出た膝小僧、透き通るようなあの白い肌。
キョトンとした驚きを小さな顔いっぱいに貼り付けて、少年はエルヴィンの弟を見つめていた。

「リリー!」

エルヴィンの腕の中から入ってきた少年の様子を信じられないという顔で眺めていたリヴァイは、ハと我に返るとそう叫んだ。
弾かれたように、少年が振り向く。

「リヴァイ?」

「リリー、こちらにおいで。いや、よく見てもらったほうがいいかな?お前たちがどれほど似ているか。」

エーリヒは手招きしたが、茫然とリヴァイを見つめ続ける様子に痺れを切らしたものか、自ら近づいてエルヴィンと同じように腕に少年を抱き込んだ。

まるでそっくり鏡に映しでもしたように、エルヴィンとリヴァイ、エーリヒと少年の組み合わせはよく似ていた。


「どうして、ここに・・・・・・お前は母さんの家にいるはずだろう、何でその、先生の偽物と」

「リヴァイ、この子は・・・・・・」

「リヴァイとリヒャルトも双子なんだよ、兄さん。よく似てるだろ?まるで子どもの頃の俺たちみたいだ。」

純粋で無垢で、何も知らなかった頃の、仲の良い俺たちみたいにね。とエーリヒは口を歪めて笑い、腕の中の少年リヒャルトを撫でた。

「悪いのはいつも一緒だ。大人たちなのさ。」



「リヴァイはパパに。リヒャルトはママに引き取られた。
 リヴァイとリリーは別れる前に約束しました。いつも一緒だと。何をも分かち合うと。
 喜びも悲しみも、楽しいことも辛いことも。分け合って二等分するんだと。
 お手紙を送り合う約束もしました。
 リヴァイからは、学校の話。朝顔の青がきれいなことや、ヒマワリの大きいこと。大好きなエルヴィン先生。
 リリーはお返事を書きました。
 ママとオムライスを作ったこと。ママもとっても元気だということ。嘘っぱちのお返事を。
 リリーは本当のことを書けなかったのです。
 だってリリーは、」

「やめて!」

リヒャルトの悲鳴が響いた。
耳を塞いで、俯くリヒャルトの頭を、エーリヒがゆっくりと、優しげに撫でた。

「どうして。教えてやろう、リヴァイとエルヴィンが楽しく過ごしているあいだ、お前がどうしていたか。
 双子なんだから。分け合う義務と責任があるんだ。そうだろ?兄さん。」

「エーリヒ・・・・・・」

「リリーとはね、公園で出会ったんだ。雨の日なのにふらふら歩いてるから、とっ捕まえて家に入れた。
 ひどい跡だったよ。全部、新しいパパがしたって言うんだ。
 絶対に誰にも言わないでって、こんなに小さな身体で言うんだ。・・・・・・おかしいだろう?」

「エーリヒ」

「おかしいだろ?どうしてリリーだけがこんな目に合わないといけない?
 ママとパパと、リヴァイには言わないでって、リリーは泣いたんだ。
 汚くなっちゃったって言うから、俺は抱いたよ。リリーが汚いって?
 汚いのは、大人だ。リリーは何も悪くない。悪者はいつでも大人なんだよ、兄さん。」

リヒャルトはエーリヒに縋りながら、涙をこぼしていた。
ぽろぽろと灰色の瞳から落ちた涙が、エーリヒの胸に浸み込んでいくのをエルヴィンは見た。

「・・・・・・じゃあこの茶番は何なんだ。どうして、リヴァイを、」

「分かち合うって約束しただろう?痛いことも、気持ち悪いことも。・・・・・・兄さん。」

エーリヒは横を向くと、みずからの襟足の髪を掻き上げた。
エルヴィンに似たうなじには、ひと筋の傷が見て取れた。
深く、引き攣れた傷だった。
エルヴィンは思い出した。

「・・・・・・ああ、そうだ。」

継母の付けた傷だった。
幼い頃エルヴィンとエーリヒの母が亡くなり、しばらくしてやってきた継母は、それまで仲の良かった双子の絆を切り裂いた。
二人の父は表面上はうまく行っていた継母と双子に家を任せ、仕事のために隣国へと旅立った。

『どちらがどちらか、分からないわ。』

区別のために付けられた傷だった。
エルヴィンはその傷に怯え、エーリヒを拒絶するようになった。
可愛がられるのは従順なエルヴィンばかりになり、双子への愛情に差をつける継母に家庭は歪んでいった。
帰ってきた父がそのことに気づいたときには、もうすべて、遅かったのだ。


「いつも一緒だと、何をも分かち合うんだと、約束しただろ?」

「そうだ、エーリヒ・・・・・・約束した」

「リヴァイたちも、同じように分かち合うべきだ。約束は絶対だろう?
 リヴァイも裏切られるべきだった。信じた大人にね。」

エルヴィンの腕の力が緩み、リヴァイがリヒャルトに手を伸ばした。
リヒャルトも同じように手を伸ばすと、エーリヒもリヒャルトを手放した。
双子は手を取り合い、寄り添うと、そっくりな姿を互いに抱き締めた。
回された腕の長さも、小刻みに震える太股の白さも、抱き寄せる力すら同じに、ふたりは抱き合っていた。

もう一対の双子は、かつての自分たちのような少年たちを挟み、何十年ぶりかに見つめ合った。

あんなに近く、同じだったのに、ふたりの今は遠く、違っていた。
うなじの傷は、エルヴィンとエーリヒを、あの日はっきりと分けたのだった。



 

崖の上のライトハウス
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